2011年01月01日
瞬間風速の分布と遭難との関係(富士山) - 村越望
瞬間風速の分布と遭難との関係(富士山) - 村越望
1、はしがき
富士山における積雪期の遭難で他の山々、
例えば北アルプスや谷川岳などにくらべて、
最も顕著で特殊性をもつているのは突風による滑落である。
この富士の突風については多くの登山者が経験し又報告などの記事にもなっており、
登山界にひろく知られていることであるが、
その突風の量的な性質についてはまだ論ぜられていないので、
1959年4月滞頂中の少いデーターから考察してみた。
2、富士山の風の強さ
一般に上空になるほど風が強くなることは知られている。
ゾンデによる上空の風の強さは第1図のようになっていて、
4月の太平洋岸の下層1km以下に東風が入るほかは全部西寄りの風で、
大体高度が1km増すにつれて風速が冬で5~7m/s,春で3~5m/s位増している。
次に各地の山岳測候所で計った風速を第1表にかかげる。
これらによつて他の山々に比べて抜き出ている富士の高さが、
如何に強風をもたらしているかが判る。
3、風による行動可能な基準
風による遭難の危険度をはっきりさせるのは、
内的な条件も加わって難かしいが、富士山測候所では、
永い間の経験によって第2表のような大よその基準を考えて行動の助けとしている。
これは個人の体力や技術,登山者の置かれている場所、
その高さや傾斜、地形など、によって異なるが、一般的に危険の目安となる。
普通行動する前から平均風速が40m/sもあれぱ、
そのパーテイは行動を起さずに停滞するだろう。
併し25m/sから30m/s位の時には、
或は出発して突風の危険にさらされるかもしれない。
問題もとなるのは平均風速が大きいことよりも、
むしろ突風が平均風速の何割増し位の強さで、
どの位起きるかを判断することだと思う。
4、突風について
突風の強さは、
ダインス風速計の瞬間最大風速と瞬間最小風速との差をもつて比較している。
最大風速(10分間平均)と瞬間最大風速との関係は次の式のようにいわれている。
もし短時間の平均風速、最大風速を決める場合、
風速の変化が少い時にはこの両者の差は無いとみてもよい。
極端な場合として10分間を考えると、平均風速と最大風速は一致してしまうから、
短時間の場合には平均風速から上式によって瞬間最大風速の見当がつけられる。
富士滞頂中に適当な瞬間風速を計る器械がなかったので、
常用の4杯風速計を用い,毎1秒ごとの風速を計るのが困難なので、
毎100m風程をストップウオツチで計り風速を出した。
この場合100m風程のコンタクトの時間が永いほど瞬間風速との差が大となるので、
非常に風の強い日をえらんでサンプリングし瞬間風速の近似値として取扱った。
5、瞬間風速の分布
4月11日は、季節風の吹出しで日平均風速は37.8m/sあり強い風が吹き続けた。
15hより16hの間の35分間の約80km風程中よりsystematicに、
20km風程(即ち電接の200回分で200の資料となる。)を取り出して
プロットしたのが第2図である。
平均値δ,標準偏差σ,を計算すると次のようになった。
δ=35.6m/s
σ=4.9
今、資料の数200、平均値を35.6、標準偏差を4.9
とした正規分布曲線を画いたのが第2図の点線である。
ここで注意することは、コンタクトの時間間隔と風速がLinerでなく、
風が強くなるほど時間間隔が小になることでこの理由により、
第2図のプロツトは左側の風の弱い方がもつと増し、
右側の風の強い方がもつと減るから、実線は一層正規分布に近づくとみられる。
得られたデータをもつと簡単に正規分布と比較するたにめに
第3表のような区分けをした。
そうして平均35.6、標準偏差4.9の正規分布より、
風速の各階級における理論頻度を計算した。これを図示したのが第3図である。
4月11日と同様な方法で、
4月23日10時30分頃寒冷前線通過後の12h50´~13h14´
までにサンプリングした200の資料についてしらべた。
平均風速 29.7m/s
標準偏差 2.3
分散が小さいので級分けを細かくして理論的頻度を計算したのが第4表である。
さらにこれを第4図のようにグラフにした。
6、正規分布としての応用
(5)にあげた2例により瞬間風速の分布が近似的に正規分布をなすことが判った。
以下正規分布と仮定して、危険な風速の頻度を計算から出すことが出来る。
1例として平均風速を30m/sとし、
標準偏差をそれぞれ2.5、5.0、10.0の3段階に分けてグラフにしたのが第5図である。
風速40m/s以上の部分をハツチでも画いたが、
この部分の面積(即ち頻度)はそれぞれ0.0、2.3、15.9のちがいがある。
(3)にのべた行動の基準と、
この図及び計算から各風速における偏差の違いによる頻度を出したのが第5表である。
7、むすび
以上により偏差の大きい時には、
当然ながら突風の回数と強さが増すことが考えられ、
登山者は一層危険な状態におかれることが知られる。
このσの値は、場所、地形によって異なるが、一定の場所では、
風向やその時の気圧のパターンにも左右されると思う。
一層正確な測器の使用により、各地の山々の各季節や、吹出し、
前線通過時などのデーターが得られれば、
突風の性質がもっとよく判り遭難対策に役立つものと思う。
Posted by 工場長Ⅱ at 23:28│Comments(0)
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