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2011年01月01日

富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎



1、はしがき


富士山測候所職員の登下山、

御殿場口太郎坊観測所の観測および其他登山者による見聞から得られた資料によって、

富士山の雪崩を調査したので報告する。

雪崩が何時何処でおきたかということは、

遭難したとか望見していた場合の他は判り難いので、

実際のものはここに掲げたものよりも多いとも思われる。

ここにはおもに気象的立場から述べてある。





2、雪崩の種類、場所、起時、被害


戦後富士山の雪崩は17回あり(第1表参照)、

大別して底雪崩と新雪雪崩(主に表層雪崩)に分けることができる。


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


(この分類に疑問をもたれるかも知れないがそれは後述で判ると思う。
 現象、起因からみてこれを適当とした。)

起こった場所は大体富士山を南北に両断して東半分に起きている(第1図参照)。


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


底雪崩は始んどが御殿場口であり、

新雪雪崩は吉田口、須走口、富士宮口および山頂噴火口等分散している。

底雪崩が御殿場口に多いのは宝永山斜面の砂礫地質がこれを助長しており、

新雪雪崩が吉田口に比較的多いのは山の傾斜が他より急峻なためではなかろうか。

雪崩起時は判明しないものもあるが、

発生は何れも1回だけでなく数回に亘って起こっているようで、

その間隔も長いものでは数時間に亘っているものもある。

被害の詳細は判明しないが、吉田口、御殿場口では各小屋が流失し、

御殿場口では測候所の送電線および電柱が流失した。

特に昭和29年11月28日(吉田口)のものは多くの人命を奪ったことでよくしられている。






3、雪崩当時の気象状態


雪崩起時の判明しているものについて、

当時の天気図と富士山の気象要素および御殿場、太郎坊の降水量を示す。

(説明略)


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎





4、気象的観察


1、底雪崩

富士山の雪崩の多くはこの底雪崩である。

起きる時刻は1月から5月の間で特に3月に多い。

1月頃のものは比較的下部(2合~3合目)から端を発し、

5月頃のものは6合目あたりの高所から起きている。

これは1月頃は寒気が厳しく、

低気圧が通過の際の暖気流入も高所まではおよばないが、

4、5月頃になると暖気も高所の雪へも浸透するためと思われる。

この雪崩のときの気圧配置をみると、

その殆どが顕著な寒、暖両前線を伴なった低気圧が存在しており、

低気圧は何れも富士山の北側を通過し、

富士山が寒、暖両前線の間即ち warm sector の場にあるとき雪崩が発生している。

このことは富士山の気象資料からもよく判る。

低気圧の接近に伴なって気圧は降下し、

風が南西に転向し気温は上昇してきて、降雨或は降雪が始まる。

悪天候は着氷現象をおこし、

気温上昇によっては樹氷(V)から粗氷(∀)に変ってくる。

(注粗氷は樹氷に比べて気温も高く(0℃近い)霧粒も大きい)

かくして気温が高極に達した付近で雪崩が発生している。

このときの御殿場,太郎坊の雨量は何れも多く月最大値か或いは次位となっている。

これ等低気圧の経路は(第3図(1))のとおりで大多数が日本海周辺を通過している。


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


なお雪崩発生時刻と低気圧の位置をみると低気圧の中心は始んどが日本海にあり、

その他沿海州と山陸沖に夫々一つずつある(第4図参照)。

雪崩跡の実地踏査(1)によると雪崩跡の雪崖の底部、即ち接地層は空洞となり、

その雪崩発端箇所の雪層の雪温,密度,雪質は深さにより、

夫々異っており一様でない(第3表参照)。

また雪崩発端部の上方に湾曲した弧決亀裂が数条あり、

この亀裂はかなり高所まで達している。

発端近くのものは亀裂口が30cm(今にも崩れそう)開いているものがあった。


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


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2、新雪雪崩

新雪雪崩は5回あり、その中4回は10月~12月に1回は4月に起きている。

場所的にも、時期的にも底雪崩よりも分散が大きい。

然しながら高度的な点では何れも高所より起きており、

この点は底雪崩よりもむしろ一定している。

10~12月に雪崩の多いことはこの頃は雪が比較的新しく、

積雪状態がいまだ不安定な時期にあるといえるだろう。

雪崩のおきた際の天気図をみると、

底雪崩同様低気圧の存在は認められるがその気圧配置は異っている。

底雪崩の場合はいずれも低気圧が富士山の北側を通過しているのに反し、

この場含はみな富士山の南側を通過している。

低気圧の経路は第3図(2)のとおりで何れも太平洋を通過しており、

雪崩起時と低気圧の位置をみても(第4図)その中心はいずれも太平洋上にあり、

且つ富士山以東にあることは低気圧通過直後に起きているものどして注目される。


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


富士山では太平洋岸に低気圧が接近する場含は比較的風は弱いが、

降水が多いので積雪が多くなり(ドカ雪等)、

低気圧通過後に風速を増すのがその傾向である。

富士山頂の気象資料をみると(第2図)参照)

低気圧の接近によって気圧が降下しているが、

底雪崩時のように気温高極付近で雪崩が発生しているということはみうけられず、

むしろ風向の急変、或いは風速の急増している付近で発生している。

このとき雪は降っていることが多いが、止んでいることもある。

何れにしても降雪末期のときである。

山頂の積雪状況によると、

数日前から積雪が漸次増大してきてピークに達した付近で雪崩が起きている(第5図)。


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


雪崩の当日積雪が多かったことは、

雪崩現場付近でラッセルして登山に困難している報告(2)からもうなずける。

(富士山では冬季7~8合目以上でラッセルして登ることは少い。)

雪崩起時と当日の気温とは直接関係は窺えないが、

日平均気温と累年平均気温とを較べると、

大体雪崩数日前から気温は上昇しているようである。(第6図)


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎


例外として29年10月のものは累年平均値よりもむしろ低目に出ているが、

これは10月では例年として山にいまだ積雪はないのだが、

平年より低温であるためこのときは雪となって積雪をみたものと思われる。

このときの御殿場、太郎坊の降水量は、

底雪崩と同様に多く矢張り月最大或いは次位となっている。





5、雪崩の原因


これ等のことから雪崩の誘因を考察すると底雪崩と新雪雪崩では自ら異っており、

いずれも直接的なものと二次的なものとが合致して雪崩が発生している。

(下図参照)


富士山の雪崩について - 石田泰治・山本三郎





6、予知に関連して


富士山の雪崩の予知が可能であろうか。

先ず底雪崩についていえば日本海側通過の低気圧に伴って富士山が、

warm sector の場となり、気温の高極附近になる時期を予め知ることであるが、

このことはさして難かしいことではないにしても、

現実にこのような場合必ず雪崩が起きるかというとそうでもない。


この気圧配置は冬から春にかけて何回か起こりうるであろうし、

雪崩の起こる確率からいえばむしろ小さい。


新雪雪崩においても気圧配置からでは、

低気圧の位置が大平洋にあるという違いだけで底雪崩と全く同様のことがいえるが、

間接的誘因が底雪崩では定常的なのに対して、

新雪雪崩では具体的に予め知ることができることは、

予知の点で底雪崩よりもむしろ有利である。


即ち数日前からの積雪、気温の状況をみておれば、

これ等の気圧配置と見合せてある程度の雪崩の予想も可能となる。

然し乍ら雪崩が発生するか否かは(特に新雪雪崩において)

一つのきっかけが重要なポイントとなる。


それは風である場合、或いは人為的なもの(歩行振動等)である場合である。

だから雪崩の起こる寸前にありながらこのきっかけがなく、

そのまま雪崩が発生しないですむ場合もある。


雪崩の予知の要は雪崩が起きたか起きないかの適中率ではなく、

雪崩の発生する可能性が充分ある気象状態を予想することにあると思われる。


これ等雪崩の遭難を避けるには、

上記雪崩の可能性のある気象状態のときには登山は見合わすべきで、

例えば登山中かかる状態に遭った時は底雪崩では途中の小屋等に泊るべきではない。

新雪雪崩ではかりにも雪崩を発生させるような、

キッカケをつくらないよう充分行動を慎しまなければならない。


また登山者は現場にあって積雪状態、天気状況を把握して、

底雪崩か、新雪雪崩が起こる可能性があるか換言すれば、

現場の雪の状態が堅く緊まっているかゆるんでいるか等を含めて、

観察し判断し行動することによってもこれ等の遭難を避けることができる。


なおつけ加えるならば、底雪崩では現場(雪崩時)はほとんど降雨中の場合が多く、

新雪雪崩では降雪中のことが多いが、雪が止み天気が回復期に向う場合も起りうる。





7、むすび


以上富士山の雪崩について、底雪崩と新雪雪崩の機構の差異、

さらに、誘因、予知についても述べたが、将来は山岳気象災害防止の一環として、

登山者に対して雪崩の予報等を知らせることも必要ではなかろうか。

この報告が富士山は勿論他の登山者の参考ともなれば幸いである。



終りに調査にあたりご教示、ご校閲いただいた藤村所長ならびに、

ご協力いただいた星屋文江嬢に、厚くお礼申し上げる。





参考文献

1)石田泰治他2名 1950:昭和24年5月13日の富士山に起った雪崩報告,
  研究時報 1.29~35

2)大井正一 1957:冬富士の遭難気象,山と渓谷,224.31.







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